1.排卵誘発剤
排卵誘発剤は、卵胞(卵子の入った袋、卵巣の中にあります)の発育を促す薬です。内服薬と注射薬があります。
2.内服薬の排卵誘発剤 クロミッド
効果
- ・内服薬の排卵誘発剤は、視床下部の受容体に作用して「卵子が十分に育っていない(卵胞ホルモンが不足している)」と認識させます。
- ・自分の内因性のホルモンで卵子を発育させるので、自然排卵と同じ流れで排卵がおこります
服薬スケジュール
- ・基本的には月経周期の5日目から、1日1錠(50mg)を5日間服用します
- ・服用開始日から10日目~16日目での排卵が80%です。比較的弱い薬なので、無排卵の人に用いても排卵に至らない場合もあります(排卵率50~60%)。服用開始日から20日以内に排卵に至った場合、効果ありと判断します。
悪影響
- ・内服薬の排卵誘発剤が卵巣ホルモンの子宮への刺激まで遮断してしまうと、頚管粘液や子宮内膜の妊娠への準備が整わないため、「排卵は良くなったけれども、妊娠にはつながらない」ということがおきてしまいます。
- ・悪影響に対しては、医師が診断しホルモン剤(内服薬・注射薬)を組み合わせ治療を進めます。改善がみられない場合は注射による排卵誘発剤や、人工授精への治療のステップアップが必要となります。
3.注射の排卵誘発剤 hMG-hCG療法
内服薬の排卵誘発剤で効果が表れなかった場合、注射の排卵誘発剤を加えます。
効果
-
・排卵はFSH(卵胞刺激ホルモン)とLH(黄体化ホルモン)という2つの下垂体ホルモンが卵巣を刺激することによりおこります。このFSHとLHに相当する物を体の外から投与する事をhMG-hCG療法と呼びます。
- ・使用する量が少なければ卵胞は発育しませんが、使用する量が多すぎると卵子が多く発育してしまうので、個人に合った量を使用することが必要です。
- ・卵胞が多数ある場合はhCG製剤を何度も使うと卵巣過剰刺激症候群をひきおこす可能性があるため、黄体ホルモンの注射を用いることがあります
投与スケジュール
- ・通常、月経開始5日目ごろ(体外受精では普通3日目)から基本的には毎日hMG/FSHを注射します。注射開始から7〜10日目ごろには反応が認められるように、注射の量を調節します。効果の確認のため、超音波検査による卵胞の数・大きさの確認や、ホルモン検査を行います。
- ・初めて使用する場合、注射に対する反応がどの程度なのか予測がつかないため、最小の量からのスタートし、経過を見ながら増量していきます。
- ・卵胞が多数ある場合はhCG製剤を何度も使うと卵巣過剰刺激症候群をひきおこす可能性があるため、黄体ホルモンの注射を用いることがあります
自己注射
注射の排卵誘発剤を自宅でご自身でうつことで、注射のみのための通院の回数を減らすことができます。自己注射を始められるかたは、看護師が個別で打ち方指導を行います。自己注射をはじめられてからも、通院による注射に切り替えることが可能です。
妊活セミナーはこちら4.排卵誘発剤の副作用
排卵誘発剤の代表的な副作用は、多胎と卵巣過剰刺激症候群です。奇形の発生率は、自然妊娠の場合と変わりません。
4-1.多胎
多胎は双子や三つ子など、1度に2人以上の赤ちゃんを妊娠した場合を指します。自然の排卵では基本的に、1周期に1つの卵子が育ちますが、排卵誘発剤は卵子が複数育つ場合があるので多胎の可能性は増えていきます。
自然妊娠の場合はおよそ80組に1組(1.25%)の確率で多胎が発生しますが、内服薬の排卵誘発剤を用いた場合は約6%、注射薬の排卵誘発剤を用いた場合は約10~20%です。
4-2.卵巣過剰刺激症候群OHSS
OHSSは注射の排卵誘発剤によって過剰に刺激されすぎた場合に、主に排卵後に現れる副作用です。卵巣が腫れ、腹水・胸水が溜まります。
腹水や胸水がたまってくると「おなかが張る」「痛みがある」「息が苦しい」などの自覚症状があるはずです。「おかしいな…」と感じたら必ず伝えて下さい。早い段階で副作用の状態を確認し、点滴などの適切な治療を行うことが必要となります。多少のおなかの張りは大丈夫ですが、我慢できない痛みに変わるようであれば夜間・休日でも必ず連絡をして下さい。
注意する症状
- ・強い下腹部痛がある
- ・1日に体重が1kg以上増加した、または普段より2kg以上増加した
- ・腹囲が3cm以上増えた
- ・尿の量がへった
- ・下痢、嘔吐、発熱がある
- ・息苦しくなった
日常生活で気を付けること
- ・できるだけ横になって安静を心掛けましょう。大切な臓器への血液量を確保するためです。
- ・なるべくアミノ酸や電解質を含む飲み物(スポーツドリンクなど)を多めに飲みましょう。
- ・血栓予防のため、長風呂やサウナは控えましょう
- ・喫煙・飲酒は控えましょう
- ・卵巣腫大による卵巣の茎捻転を防ぐため、激しいスポーツや体を強くねじるような 運動は控えましょう。
- ・タンパク質を豊富に含む食事(肉/魚/豆/豆製品/卵/牛乳など)を心掛けましょう。
治療方針への影響
OHSSの症状は、月経が開始すれば改善されます。体外受精や高度生殖補助医療では、OHSSが確認されればその周期は妊娠を目指さず受精卵を保存しておいて、次周期以降で胚移植を行うスケジュールも選択できます。